主要な研究について
材料系研究室として、現在は主要なテーマとして「コンクリート」、「解体・改修」、「建築外装材」を掲げています。それぞれのアプローチについては下記を参照ください。
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コンクリートに関わる研究
再生骨材コンクリート
建物解体後に発生するコンクリートガラは、そのほとんどが中間処理を行った後に道路用建材(路盤材)としてリサイクルされます。この流れでは新たなコンクリートを製造する度に約7割を占める骨材(砂・砂利)を自然から採掘する必要があります。そのためコンクリートガラを骨材にリサイクルした再生骨材、またそれを用いたコンクリートの研究に取り組んでいます。

<研究アプローチ>
再生骨材の製造シミュレーション(2024年~)
コンクリートガラは骨材とセメント水和物によって構成されているので、破砕機を用いて骨材を取り出すことで再生骨材を製造します。破砕機の中でどのように破壊が起こっているのかを4次元モデルで再現することで、投入されたガラ・使用する破砕機・製造された再生骨材の関係性を明らかにします。特にコンクリートガラは様々な建物から発生して混ざり合うので、多様な品質を持つことがあり、破砕機のセッティング(パーツ間隔や位置、硬さなど)をどのようにすれば品質の良い再生骨材が製造できるか、壊す前から推定できる方法を提案します。実験で実際に製造した再生骨材の物性と解析結果を比較することで、解析の正確性などについても検討を行っています。

【卒業論文:内田翔大「粉体解析を用いた再生骨材の性能予測手法の提案」(2024年度)】
再生骨材リサイクルに伴う環境負荷の推定(2024年~)
建物を解体して発生するコンクリートガラを再生骨材として利用すると環境影響にどのような影響を与えるのかについて取り組んでいます。実在する工場や解体工事の発生をモデル内に再現して、解体されたコンクリートガラが従来のように中間処理を行った後に①道路用建材(路盤材)としてリサイクルされる場合と、②次世代のコンクリ-ト用の骨材としてリサイクルする場合の環境負荷を推定します。JASS5と呼ばれる日本建築学会が提案する指針に基づき、再生骨材を用いたコンクリート(再生骨材コンクリート)の適用可能な部位や割合なども明らかにした上で、複数のシナリオを想定・比較することで最適な方策についても検討しています。

【卒業論文:坪井駿「廃コンクリートの構造物再利用に伴う環境負荷低減効果の推定」(2024年度)】
自己治癒コンクリート
建設時に使用されたコンクリートは様々な理由でひび割れを起こします。ひび割れを補修するには足場を掛けるなど補修コストも大きいので、自分でひび割れを治癒するコンクリート、自己治癒コンクリートが開発されました。自己治癒の方法としては、人体における血管と同じようにひび割れを補修する液体をコンクリート内に循環させる方法や、バクテリアをコンクリート内に混合しておくことでひび割れを防ぐ方法が代表的です。本研究室ではバクテリアを用いた研究に取り組んでいます。

コンクリート内のバクテリア生存リスクの推定(2024年~)
自己治癒コンクリートの製造プロセスは、一般的なコンクリート材料と共にバクテリアを混入して練り混ぜる形で行われます。バクテリアが練り混ぜられる中でどの程度の衝撃を受けるのか、またセメントなどが含まれた高アルカリ性の溶液中でどの程度の影響を受けるのか、などを定量的に明らかにすることで、練り混ぜられたバクテリアのうち何割が生き残って自己治癒に貢献するのかを明らかにします。バクテリアは環境が生育に適さない場合には”芽胞”と呼ばれる休眠状態に入るなど、形態を変化させることが明らかになっているので、各プロセスにおいてどのような状態で、どのような活動を行っているのか、も含めて明らかにすることで、最適な製造方法の提案や製造した自己治癒コンクリートの自己治癒性能の推定などを可能にすることを目指しています。

【共同研究:北九州市立大学 高巣幸二教授ら 国際共同研究強化(B)「改質した⽊質バイオマス燃焼灰による⾃⼰治癒型低炭素ジオポリマーコンクリートの開発」(研究分担・2024-2026年度)
卒業論文:竹田弘貴「自己治癒コンクリートの製造過程におけるバクテリアの生存リスクの検討」(2024年度)】
ALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete:軽量気泡コンクリート)
一般的なコンクリートがコンクリート工場で製造されて施工現場で打設・硬化させるのに対して、軽量気泡コンクリートは工場で硬化までを行ったコンクリート製品となります。高温高圧下で蒸気養生することで短期間での強度確保ができ、発泡剤を混ぜて内部に気泡を有することで高い断熱性と軽量性を持つコンクリートです。断熱材としても優れる材料ですが、特殊な製造方法による影響等について取り組みます。
<研究アプローチ>
ALCにおけるひび割れ発生リスクの推定(2025年~)
上述のように軽量発泡コンクリートは高温高圧下で蒸気養生を行います。そのため、常温に戻した際には温度の低下に伴い収縮します。ALCは他のコンクリート同様に曲げ・引張抵抗性を向上させるために鉄筋を内部に配しており、より収縮傾向が強いために、内部鉄筋に引張応力が発生した状態となります。更に施工までの間に外部に放置されることで、乾燥・湿潤を繰り返すこととなり、収縮と膨張を繰り返すこととなります。これらの現象が重なることでALCにひび割れ発生のリスクが生じると考えられることから、実際にALC製品をモデル化して有限要素法解析を行うことで、物性・配筋・周辺環境の影響がどれほどひび割れリスクに影響を与えるかを明らかにします。
【共同研究:クリオン株式会社「ALCパネルのひび割れの抑制方法に関する研究」(2024-2025年度)
卒業論文:佐藤大知「ALCの力学的性状に及ぼす主要構成鉱物の影響」(2022年度(橘高研究室))】
解体・改修に関わる研究
建物解体
建物は供用期間を終えると解体されて様々な廃棄物となり処理が行われます。ここでの処理とは、環境性の高い順番にリユース、リサイクル、最終処分があり、需要や要求水準、処理コスト、施設間距離などによって処理方法が決められます。そのため、解体の時点で要求水準である廃棄物の性能(物性や純度など)を高める工法を選択することで、より多くの建材を再資源化可能と考えられます。そのため解体や廃棄物の発生を再現して、それに伴う負荷を定量化することで最適な解体手法の提案や資源循環による負荷抑制効果などを研究します。

<研究アプローチ>
建物解体シミュレーションの提案(2015年~)
建物の解体を4次元モデルで再現することで、重機や破砕に伴うがれきの飛散挙動を明らかにします。それによって重機使用に伴う負荷の発生や現場の危険性、廃棄物の混ざり込みなどを明らかにすることができ、廃棄物の処理負荷などを算定することで、解体から廃棄物処理までの総負荷やリサイクル率を定量化可能となります。重機の動きはアルゴリズムと呼ばれる原則に基づいて自動操縦で動くため、解体工法や解体方針をアルゴリズムによって再現することで、複数の解体方法による発生負荷を比較することが可能となり、現場に合わせた最適な解体手法を計画段階で提案可能となります。
解体においては、解体中の音や振動の発生、構造的な安全性なども考慮する必要があります。上述のシミュレーションによって重機がどのように建物を破砕するのか明らかな場合、それに伴う音の発生や、入力された荷重によってどのように部材が破砕されるか、構造物が崩壊しないかについて、それぞれ音響解析や構造解析を用いて推定手法を検討しています。解体シミュレーションを高速で再現するのに合わせて解析の精度と共に解析時間の短縮が重要となることから、解析効率や簡易化できる限度などに焦点を当てた研究も行っています。

【学位論文:Yocihiro Kunieda ”Development of an impact assessment tool for demolition”(2017年度(Bath大学))
卒業論文:佐伯駿「構造解析を用いた解体シミュレーションの基礎的研究」(2024年度)】
解体廃棄物の回収最適化手法の提案(2015年~)
建物解体時や被災時において発生する解体廃棄物の山や建物がれきは複数の建材が混合された状態となります。上述のように環境性の高い方法で廃棄物を処理・再利用するためには、純度の高い回収が重要と考えられます。そのため最適な回収方法を提案するとして、回収重機の操縦にアルゴリズム(原則)を用いて制御することで複数の回収方法を再現して純度やリサイクル率などの観点から比較を行います。最終的には重機の使用コスト、廃棄物の輸送費用・処理費用を算定することで、がれきの山を処理する際の総コストが算定可能となります。この手法を用いて自動操縦における意思決定などへの適用などを目指しています。

【卒業論文:坂入莞汰「数理アルゴリズムを用いた解体廃棄物の回収最適化に関する基礎的研究」(2024年度)】
建物改修
建物は従来のスクラップ&ビルドの形から持続型社会の形成を目指して長寿命化へとシフトする傾向にあります。そのため築年数の長い建物が増え、経年劣化による補修や建物の機能を高める改修などの需要が高まっています。補修改修時においては、建物を使用しながら工事を行うことも多いことから、施工に伴う音や振動、粉塵などの発生について把握しておくことが重要になります。そのため本研究室では、特に改修施工を上述の解体作業を部分的に適用する部分解体と考え、解析などを通した推定方法などを検討しています。
改修時における発生騒音推定の研究(2024年~)
建物改修時における破砕機等の使用に伴う発生騒音について、音響解析ソフトを用いて推定を行います。内壁等の撤去においては、閉鎖空間が徐々に開口していくなど経時的に音を伝える環境も変化していくため、作業の経過と共に発生する騒音がより伝わりやすくなると考えられます。建物をモデル化して部材が破壊されることを表現すると共に、音響解析の結果を示すことで、改修作業の進捗と周辺の音環境が可視化を可能とし、施工のタイミングや撤去の方法などの計画策定に役立つ提案を目指します。

建築外装材に関わる研究
建築外装材
外装材は風雨や日射などの影響から建物を守る役割と建築の意匠的な表現としての役割を持っています。そのため時間とともに物理的にも美観的にも劣化が進行し、足場を組んでの補修などが必要となります。長寿命化につれて補修頻度は高まることから、補修リスクが明らかに出来れば、ライフサイクルを通した建物コストが大きく低減できると考えられることから、本研究室では外装材の補修リスクの推定を主眼に研究を行っています。
<研究アプローチ>
雨水挙動シミュレーションの提案(2022年~)
建物のファサード(外観)は時間とともに雨筋汚れによる黒ジミ汚れが目立つようになります。外壁に付着した塵埃をエサに細菌、藻類、カビの順に繁殖が進み、最終的にカビの黒色が雨に交じって垂れ、蒸発することで汚れとなります。そのため建物ファサードにおける雨水の挙動を明らかにしてやることで建物の汚れ方を推定できると考えました。粒子法と呼ばれる方法で実際の建物モデルに雨粒を降らせ、ファサードにおける流水量の分布を解析しました。実際の汚れの分布と比較することで、流水量を予測することで汚れの予測も可能かを検討して、両者の相関を明らかにしました。これにより建物の設計段階の時点で、どのように汚れが発生するのか予測可能となり、補修の少ない建物デザインの選択などが可能になると考えられます。

【卒業論文:廣川光「建築物外装に発生する雨筋汚れの推定手法の提案~雨水流下シミュレーションによる解析~」(2022年度(橘高研究室))】